2018年9月14日金曜日

マイナス金利とサブプライム・ローン

スルガ銀行の不正融資が1兆円 (8/21) との事でしたが、おそらく日本史上最大の金融問題だと思われる山一證券の破綻と同規模の話になっていたので、気になっていました。 まあこういうニュースは飛ばしの事もよくあるので話半分に。 ニュースが一段落してきた事もあり、思考の整理のために少しだけ考察をしてみます。 マイナス金利とサブプライム・ローンの観点からは、一考に値する事件ではあったと思う。

山一證券は「ニギリ」という元本・利回り保証をして客集めをしていましたが、バブル崩壊によって資産価値が下がった事によって資産が含み損に変わり元本保証ができなくなりました。これを隠すために「飛ばし」によって含み損資産を第三者に転売する事によって損失を隠していたのですが、飛ばし先がなくなってきてペーパーカンパニーを作って誤魔化した事によって粉飾決算でバレ、最終的には破綻となった金融事件です。細かな点については検索したほうがわかりやすいです。

スルガ銀行のニュースはようするに不正融資によって本当は含み損資産がどれくらいあるのかという状態です。 資産がどれだけ焦げ付くかでその重大性は変わってくる。 山一證券は負債3兆5000億円で廃業したそうなのですが、 負債のうちどれくらい回収不能でマイナスなのかは今調べようとしても調べられない。 ただ最終的に融資した日銀の融資はピーク時で1兆2000億円あったとの事で、 負債の1/3が回収不能金だったという事になると思います。 こういった数値がスルガ銀行のバランスシートにかなり近い数字なんですよねえ…。 山一證券に限らずバブル崩壊では様々な地銀が潰れましたが、過去の事例では回収不能金が運用資産の1/3を超えているケースが多い。


8/21の報道前から株価は結構下がっていましたが、このニュースが出る前日の資産情報は以下。 株価770円、時価総額1655億円、PER7.1, PBR0.52。 また総資産4兆236億円のうち貸出金は3兆156億円となっているので、その1/3が不正融資という事になります。 ちなみに株価は翌日に20%近く下がっているのでPERなどはあまり当てにはなりませんが記録として残しておきます。

スルガ銀行の不正融資と山一證券や他過去の地銀などの回収不能可能性を直接比較する事はできませんが、 かぼちゃの馬車くらいの案件であった場合は、 まず回収不可能にも見え、総資産の1/3がそのまま焦げ付く可能性もある。もちろん何ともない可能性もある。 ただもともと書類の改竄数億円規模の持ち逃げ不動産屋と銀行間での不正なやり取りなど、直近でも色々な問題が指摘されていましたし、1兆円報道後も全体では2兆円規模や、99%の案件が承認されていた事経営層の一斉辞任会長の十数億円規模の私的流用といった報道があり、体制に問題がある事は明らかです。 最終的にどうなるんでしょうかねえ。


リーマン・ショックの引き金になったサブプライムローンは、 家を担保にして低金利でレバレッジを掛けてローンを組めた事と、 不動産流動化の拍車によって倍々ゲームでレバレッジが上がり、酷い事になりました。 日本で家を担保にスルガ銀行で家を建てまくった人は居なそうなのは救いでしょうか。 それが罷り通っていたらリーマン・ショックとほとんど同じ構造ですが、 実際には金利の高さからそんなに家を建てられた人は居ないような気がします。 なのでそれよりはマシかなあとは思うのですが、最近テレビで野原に超高級ホテルを建てたような特集があったりして、これ大丈夫なのかなあ…みたいな感じもしていました。 スルガ銀行に限らず不動産界隈から顧客の預金残高データ改ざんしたり別の顧客に不動産評価額の3倍で売却などのニュースが徐々に増えてきましたね。

サブリースやマイナス金利の観点から考えると、 不景気でもお金を出してもらうためにマイナス金利になった訳ですが、 余裕を持って建てられる企業は少ないため貸し倒れ確率はやや高くなる傾向はあると思います。 なので金利とのギャップも大きくなるので、 金利の高い=リスクの高い機関はどうしても問題が生じやすくなってしまうように思う。

ただこれがマイナス金利だから起きたものかというと、そうではないでしょう。 スイスやスウェーデンは日本よりずっと強力なマイナス金利を今でも実行しており、 善悪はともかく日本がマイナス金利を実行するのもそれなりの理由があるとは思っています。 なってしまった以上は個人も銀行もマイナス金利でも耐えられるような努力をしていかなければいけない訳ですが、 スキームを変えていかないと本来はいけない。 スキームを変えずに利益を上げるためには不動産価格を上げて融資を増やし、ローン金利に鞘を増やし、リスク管理を緩くするしかないと思う。 ただこの場合、貸し倒れ確率がさらに高くなってしまうので、何らかの問題は生じて当然とも言えます。 個人レベルでもスイスやスウェーデンの国内情勢を見ると、将来直面する問題がより正確に見えてくるように思う。


ケインズの貨幣需要だったり流動性の罠において金利の低さによって投機的需要が増えるという考え方がありますが、 今回の一件はその対象が銀行と組み合わせの良い不動産であったという例とも見て取れます。 リーマン・ショックの時にも世界で低金利需要が増え、国債に投機的需要 (新興国の需要だけでなく政府、銀行、さらには国民の需要も含む) が増える事によって、 長期金利が上がらなかった事で過度の過熱を生んだとも言われます。 上記のリンクではリーマン・ショック時代の様々な考察がなされてますが、結局のところ過剰行動はどのような環境でも起き得るため、 長期間同じ事をし続けた事(硬直した組織や考え方も)が問題の根源ではないかな。

ただこれにしても、現実的にはコロコロ変える事ができませんから、 いかに過剰行動を防ぐかという観点のほうがおそらく重要なのだろうと思います。 例えば別の顧客に不動産評価額の3倍で売却のニュースがあった直後に、不動産に「履歴書」導入というニュースがあったりして、これがあればまず違法的な行為は少なくなるでしょうね。 軽く調べてみたのですが、世界的には不動産の成約価格が公開されているのは当たり前のようです。 重要なところがすっぽり抜けてるものだなあ。

実のところ、私は一連のニュースを見て真っ先にケインズの理論が頭に浮かびました。 ケインズの投機的需要の考え方は様々なものに応用が効く考え方です。 常識的行動は大多数の人にとって投資的行動に見える一方で、 実際には大多数の人が間違っていて、むしろその行動のほうが投機的である可能性もまた高くなります。 行動が過剰かどうかの判断は、その行動を行った事によって得られる利益で決まるとするなら、 実入りの少ない行動を常識として捉える事は間違いです。 また実入りの少ない行動の繰り返しの裏にはリスクが生まれやすくなる。 肝に命じなければと思いました。

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