2018年5月16日水曜日

モバイルOSを比較しつつ動向・情勢をまとめてみた

Windowsタブレットを貰ったのですが、どうにも使いにくく別のOSをインストールしてみようと思いました。 しかしタブレットPCに野良OSを入れようとしてもネットの情報も雑然としていて、正直理解するのに凄く時間が掛かる。 そこで思考の整理のためにモバイルOSの情勢を軽くまとめてみました。

まずタブレットに使えるようなモバイルOSは以下が選択肢になると思います。 他にもスマートウォッチ用のOSとして WearOS, WatchOSなどありますが、こちらはひとまず割愛します。 今回はあくまでスマホ、タブレット用のお話。


上記の中でChrome OSは、実際には2種類あります。
  • Chrome OS: Chromebookに搭載されているOS
  • Chromium OS: ソースコードが公開されたOS、ダウンロードできるのはこちら
中身はほとんど変わりませんが、私のようにWindowsタブレットに別のOSを入れたいような場合にはChromium OSを使います。 Chrome OSはなかなか凄くて、そのOS上でUbuntuやCentOSなどのLinuxをインストールする事もできます。 最近はChrome OSに最適化されたGallium OSというディストリビューションまであるみたい。


またAndroid OSとChrome OSの違いですが、使い勝手や実装の違いは結構あるので、まずはそこでどちらかを選べば良いと思います。 ただChrome OSではAndroidアプリがサポートされ (※Chromium OSではない)、Androidができる事はChrome OS上でだいたいできるようになりました。 上記に述べたLinuxを追加インストールできる差もあるので、私はChrome OSがAndroid OSの上位互換のようにも見えてきています。
もっともこれは何とも言えなくて、GoogleはChrome OSやAndroid OSの次のOSとしてFuchsiaを開発中なんですが、 FuchsiaはChrome OSとは異なりLinuxカーネルに依存しなくなり、Android OSとは異なりGPLやJavaに依存しなくなる予定のようです。 つまり今は結構不安定な状況にある。 この根源にある問題は後に再度取り上げますが、Java特許Linux特許で苦労している事にも関係している事だと思います。 Linuxカーネルに依存しないのであれば、Fuchsia上でLinuxが動くかどうかよくわかりません。 Androidアプリは、Android OSとiOSの両方で動作するクロスプラットフォームのコードを作成するプロジェクト: Flutterがあるので、こちらは大丈夫そう。 あと対応言語もC/C++, Dart, Go, Rustになっており、これは将来のプログラミング言語動向にも大きな変化を起こすのではないかと感じました。 長くなるだけなので、何となくそんな感じという事でお茶を濁しておきます。


残りのOS、WindowsやiOSについては語る必要もないと思うので割愛しますが、フリーなOSはどうなっているのでしょう。 私が事前に知っていたのはTizenとUbuntu Touchだけでした。 ネットでマイナーなOSをかき集めると思ったより色々なOSがあったので、ざっくりと特徴をまとめてみました。
  • Tizen: サムスン主導、6社くらい共同開発のLinuxベースのOS。Androidアプリも動作。
  • LineageOS: AndroidベースのOS。公式OSにはないカスタム機能が色々と付いている。
  • AliOS: アリババ主導のAndroidベースのOS。カスタム機能が色々と付いている。
  • Ubuntu Touch: UbuntuのLinuxベースのOS。ただし今はUBportsが開発を継承。
  • Sailfish OS: ロシアとノキアの流れを汲むLinuxベースのOS。Androidアプリも動作。
  • Librem: セキュリティと自由を主張したLinuxベースOS。Androidアプリも動作。
  • Plasma Mobile: KDEのLinuxベースのOS。
  • postmarketOS: 古いスマホでも動く事を目指したLinuxベースOS。まだまだ開発中。


まず最初に言っておくべき事は、マイナーOSは残念ながらどこまでもマイナーOSという事です。 NetMarketShareでスマホやタブレットなどのOSのシェアは簡単に調べられるのですが、 どちらも見事なまでにAndroid OSとiOSの複占市場になっている。 そのような問題もあって、Android OSとiOSへの依存度を減らしたいロシアはSailfish OSを支援しているみたいです。 インドやアジア、アフリカのスマホ新興国だけでなく、ラテンアメリカや日本、中国への進出も見せており、Sailfish OSの今後は注目すべきかも知れません。

ただAndroidベースのOSは、集計の時に同じAndroid OSとして判定されてしまうせいか、マイナーかどうか判断が難しいところがあります。 良い例がAliOS。 AliOSは紆余曲折があり過ぎて名称が不安定ですが、Yun OSとかAliyun OS、雲OS、阿里巴巴OSといった開発コードの流れを汲むOSです。 OSベースで見ると中国でもAndroid OSが主流ですが、この中には相当量のAliOSユーザが居る事は想像できます。 Wikipediaによると2016年の出荷数から推定すると中国で2番目に大きいシェアを誇っているそうです。 これだけシェアを持っているとAliOSの場合、マイナーなのは中国専用OSだからというだけかも知れません。 1600人のエンジニアを投入して開発したという規模感も、かなり参考になる数値なので合わせて載せておきます。

このような地域別OSの流れは今後も強くなっていくかも知れません。 マイナー過ぎるので比較欄には載せませんでしたが、インドでもIndus OSという国産OSを作る流れができています。インドは他にもKaiOSというOSもあり、インドでは既に4000万台以上も出荷されているようです。 Androidに次いで2番目に人気のあるOSになっているとか。
今後アフリカOSなどが生まれてもおかしくないと思いますが、アフリカでは既にSamsungとNokiaが2大シェアを持っており、さらに第3位は中国資本のTecno Mobileが居ますから、アフリカでは露中韓がシェアを握り続ける可能性もありますね。 そうなれば今後人口が増えていくアフリカでのこれらの国の影響力はさらに大きくなると思われます。
ところで北朝鮮でも色々なOSを作っているみたいです。こういうニュースを見てると、特許では勝っていても技術面では既に日本を上回っていても驚きません。


なぜ中国OSが流行ったのかは、ガラケーに多少ヒントが隠れているように思います。 一世を風靡していたかのように見えるガラケー=フィーチャーフォンですが、フィーチャーフォンはたいていノキアのSymbian OSで作られていました。 ガラケーを生産していた日本企業はいわゆる組立屋やアプリ開発屋でしかなく、昔からリーダーシップはありません。 それにも関わらず日本企業が国内で大きなシェアを保っていたのは、OSを作っているノキアが日本市場にリーチできる端末を販売しなかった事が大きいでしょう。 仮にノキアが日本市場に端末ごと進出していたら、おそらく日本企業の入り込む余地はもっと小さかったはずです。

このような世界と国内のギャップというのが基本的には重要なのだと私は考えています。 中国はITに関しては常に障壁を作っていますが、これは国内産業にとっては非常に好影響のある政策です。 Android端末にももちろん障壁があります。 中国で米国製のAndroid端末を使っても、コンテンツプラットフォームであるGoogle Playは中国からは使えません。 当然使いものにはなりませんから、ここに中国OSが根付く環境がもともと合ったはずです (端末はコスト影響のほうが大きいかも?)。 ケータイ端末の販売会社は2018/2現在でアップル以外には中韓企業しかない現状 (ガートナー調査) ですが、 中国のこういった特殊な情勢が変わった時、ケータイ業界はまた大きく動く可能性があります。 フィーチャーフォンでリーダーシップのあったノキアもスマホOSの登場で、シェアを50.8%→3.1%まで一気に落としました。 その後、Microsoftの買収鴻海の買収を経て、今ではAndroidスマホを作るようになったり、ケータイ事業は思っているよりずっと激しいものです。


実際、最近は徐々に変化の兆しもでてきています。 米国は政府契約企業のHuawei、ZTEの機器の使用禁止にしました。 中国端末の攻勢を見ていればいつかは来る制裁だったとも言えると思います。 GoogleでさえもJava特許Linux特許Microsoft特許で苦労している中、少なくともOSに関して一番利益を得ているのは中国かなと思ったりしますし、中国の知的財産侵害に制裁関税の発動もまた、いつかは来る制裁だったように思います。 中国のソフトウェアにはスパイウェアが頻繁に含まれている事は周知の事実ですが、スマートフォンにも含まれている可能性がある事も、この問題を難しくしているように思います。 OSの在り方や端末の在り方にも影響がある話だと思うので、今後どうなっていくのか興味は尽きません。

2018-12-05追記: さらにChrome OSが徐々にシェアを伸ばしている事を受けてか、MicrosoftもWindows Liteという新OSを開発中だそうです。 まだどのようなものかはわかりませんが、期待したいですね。 他にもIBMがRed Hatを買収しましたが、どちらもコンテナというOSの1つ上のレイヤを手掛けている企業です。 RedHatは今でもOSを手掛けていますし、IBMは昔はノートPCの製造もしていた。 この辺りも何か面白そうな事がありそうですね。 何となくの予想ですが、近い将来、OS周りは結構動くんじゃないかと思っています。

2019-03-05追記: ファーウェイがAndroidに代わるスマホOSを開発中というニュースが入ってきました。 中国の技術力的に作れないはずはないので「ついに来たか」と思う一方で、とても凄い事で、今後どうなっていくか楽しみです。 ARK OSという名前になるらしい。

2019-06-04追記: iPadのOSが、iOSからiPadOSになるらしいです。 個人的にはうーんという感じですが、色々な狙いは読み取れ、大変な時代になったなあという印象があります。

2019-08-15: Harmony OS (鸿蒙 OS) という名称で、ファーウェイが新OSをリリースしてきました。 カーネルからきっちり書いているみたいで、OSS としてソースも公開されました。 C# で作っているのは最初は意外でしたが、Java特許を回避しつつ、2012年から開発だとRust/Goは採用しにくく、C# は妥当と思いました。 C# が Apache License なのも、もしかすると採用の理由にあったかも。



最後に実利用についてですが、タブレットなりスマホのOSはメンテナンスされていないと結構怖い代物なので、 マイナーであればあるほど、メンテナンスを将来的にも維持できるかどうかが私は気になります。 この一番わかりやすい例と思ったのは、Androidアプリのサポート。 LinuxベースOSではAnboxを利用すればAndroidアプリが最低限動きます。 ただ昔Ubuntu上で遊んでみた時は激遅だった記憶もあり、使いものになるかはわからない。 そのためAndroidアプリを使うにはAndroidベースのOSか、互換性まで気を回しているOSのほうが良いはずです。 しかし互換性はGoogleに遅れて追随するしかないため、多くのOSはここに辛みが出てくる事が予想できます。

このような情勢を踏まえた感想ですが、 Chrome OSは現時点ではシェアも低い状態ながら今後Linuxユーザの利用が増えてくるのではないでしょうか。 少なくとも私はかなり良い選択肢かつ、良い立ち位置のOSと思いました。 Chrome OS自体は超が付くほどシンプルな設計なので、そのメンテナンスは他のOSより遥かに楽と思います。 そのOS上でLinuxが動いてくれるなら、サポートに不安のあるマイナーなLinuxベースOSを使う理由は少なくなります。 おまけにAndroidアプリも動くとなれば文句がどこにもありません。

Fuchsiaでどうなるかわからないところが怖いですが、 現時点ではタブレットPCならChrome OSを入れておけば良いんじゃないかという空気を私は感じました。 まあタブレットPCは教育、カタログ表示、データ取り、注文システムなど業務に使っている人のほうが多いのかなとも思っているので、 Chrome OSの特性が必ずしも流行に繋がるとは限りませんけど。 ただ日本はともかく、米国では教育用PCの60%はChromebookと言われていますLinuxとシームレスに連携できるので当然とも言え、この流れは継続すると思います。 米国でも安さは正義でしょう。

モバイルOSの情勢に変化があったら、このページは適宜加筆修正をしていくつもりです。

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